「出産方面」: 拝啓 ふくすけ様

2009年7月21日火曜日

拝啓 ふくすけ様

お元気ですか
今朝起きて顔を洗うとき
ふとあなたのこと思い出しました
鏡に写った私の美しい顔をみてうっとりしていたら
あぁ、そういえば昔ふくすけさまがいたな、
と思い出したので、自分でもびっくりしてしまって……

お変わりはありませんか
私のほうはこんな具合で
昨日と今日と明日の境界についての研究が
いまだ手付かずの状態で
ほんとうにいやになってしまいます

はっきり申し上げて
私はあなたのことがそれほど好きではなく
あなたも私のことをこころよくは思っていなかった
と記憶していますがいかがですか
いかがですかと聞いて答えの返ってこない時間の隙間が、
どうしてこれほど居心地が良いのでしょう

あ!インクをこぼしてしまいました
この便箋の端についた青い紙魚
あなたのところにそのまま届いてしまうけれど
どうか、可愛がってやってください
これはけっして、飲み物でも食べ物の跡ではなく、
ましてや涙などでもありませんから、ご了承ください
ただのインクです

時を告げる機械のような、曖昧なものを見つめていて
刻まれる時を知るとはなんと楽しいことか、
と思った次の瞬間に、
殺意にも似た苛立ちに支配されるようなことがあるのですがいかがですか

ほんとうにいやになってしまいますけれど、
何故か楽しくて笑ってしまって
今日は日がな一日
隠れるように生活してみました
ふくすけさまはきっと驚かれるでしょうけれど
今、とはそんな時代です
なにやら箱のなかでは
多くの人間がおよそ意味のわからないことを言っては笑っております
ものすごく明るい光と聞いたこともない音楽が流れ出しております
それから
その、今、すら切り取って貼り付けて、あなたに届けることだって……

書きかけたあの物語は
もう終わったのですか

語り始めたあの口伝は
いま、何処を歩いているのですか

私は
部屋の鍵をあんまり何度も失くしてしまうので
もう、扉を開け放しております
ほんとうに
いやになってしまいますが
元気です
それでは、さようなら 
   
追伸
実ったばかりの青梅をあまり食べ過ぎませんように
毒性があるので、エレガントに死んでしまいますよ
あなたにはずっとどこかで
元気に暮らして欲しいと願っております

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