言葉の切れ端が、女に似ている
わたしの横顔が、女に似ている
知らない時代の夜が終わり
朝の白さに呆然としていた
物言わぬ人が物言わぬまま、沈黙を知らなかったから
物見えぬ人が物見えぬまま、ただ足音だけをたてているから
聞こえない人は聞こえないまま、ただ、びしょ濡れだったから
わたしは眠りながら生きていて
ほんの少し女に似ていた
遠い国
横たわる人は何も知らず
この耳元だけにささやいた
わたしが知らないすべての物事を
言葉の片鱗が朽ちてくれないから
驚いて砂をかけたけれど
もう、時間が、足りなかった
横たわる人の瞳の色を
知ることはできなかったのだ
ちぎれたなにか
もう一度だけたずねたい
永遠に失われた言葉と引き換えに
彼らはどこへ行ったのか
音楽が聴こえる
祝福は沈黙だけで充分だったのに
彼らはわたしの中に旋律を残したのだ
けれど、わたしはやがて知る
その古い楽曲こそが、だた、彼らの言葉だったのだと
そして一人、なす術もなく
見えないものの存在を問うた
どこですか
そこ、は、どこ、ですか
忘却だけが救いではなかったから
わたしはもう一度かばんに荷物を詰め込む
遠い国
見知らぬ人々の頬を撫でるわたしは
多分、あの時女に似ていた
ほこりにまみれた肌の色は、もうそれほど区別もつかず
ただ少しだけ、女に似ていた
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